「こいつと一緒なら大抵のことは切り抜けられる。頼もしい相棒だよ」
「どうしても行くのね?」
「うん、たとえ君が僕を引き留めたりここに閉じ込めようとしても無駄だよ。僕が外に出るのにドアは必要ない」
 それは何となく理解できた。
 この雪深い中を明かりもなくろくな装備もなしでここまで来たのだ。腰のあたりまで積もっている雪道を歩いて来た割にはさしたる汚れはない。この不自然極まりない状態を説明するのは精霊の力なしには不可能であった。
「誓うよ、絶対に君を取り戻す」
「……」
 言葉が詰まった。この再会までの歳月はどのくらいであっただろうか。その間に店は取り壊され、美冬の家族は他の町に引っ越してしまっていた。
 ここは本来何もない更地。
 だが……。
 彼が用事を済ませたと言わんばかりにドアに向かう。その腕を掴もうとするが美冬の手は虚しく空を切った。うっすらと彼の姿が半透明になっていく。
 ああ、これが彼の授かった力か。
 もはや互いに人ではないのだと彼女は判じる。彼をそうさせてしまった自分が憎かった。こんな運命を恨んだ。互いの時間が止まっているのならせめて彼の分だけでも何とかしてあげたかった。