「秋人、どうしたの」
 美冬は軽く首を傾けた。彼とはずいぶん会っていない気がする。曖昧な記憶の中で幼いころの秋人と自分の姿があった。快活に笑う彼に美冬は僅かに微笑む。何もかもが美しく何もかもが幸せな時間だった。もう戻らない時間、もう来ることのない時間。
 彼女の時間は止まっていた。
「……」
 何かを告げようと彼が口を開きかけ、やめる。代わりに彼は抱きついてきた。しっかりとした感触に美冬は軽く戸惑う。冷気にさらされていた彼の身体は冷えていたがじんわりと温まっていくのがわかった。
 とくんとくんと心音が跳ねる。
 美冬は彼に腕を回した。応じるようにぎゅっと身体を預ける。
 ほわりと彼女の頭上で黄色い輪のようなものが浮かんだ。
 それは無意識のうちに発現したもので彼女からは見えない。
 しかし、彼はそれを視認したようだ。
「……そっか」
 納得したように、哀しそうに彼がつぶやく。
「おかしいとは思ったんだ」