「……」
 勢い余って前のめりに倒れた彼が不思議そうな顔をしながら起き上がる。きょろきょろと店内を見回し、そのアーモンド型の目をぱちぱちさせた。
 コートのフードが外れて胸まで伸びた亜麻色の髪を露わにしている。縦巻きロールの髪は先程までフードを被っていたらしいというのに湿っていた。

 ああ、まだお姉さんのこと忘れられないのね。
 美冬は彼の髪型を前にため息をつく。お姉ちゃんっ子だった秋人が十歳のときに五歳年上の姉を病気で亡くし、その後彼女の真似をするようになったときは少なからず驚かされたものだ。
 秋人は顔立ちが良く、女性と見間違えてしまいそうだった。黒髪ショートの美冬には真似できない髪型に少しうらやましくもなる。長身で美冬よりも頭一つ分は背が高かった。
「美冬……?」
 信じられないといった面持ちで彼が声を漏らす。