彼女はこの建物から出ることができなかった。それはまるで決して破ることのできぬ掟のようなもので、シンプルだが極めて強力な呪いでもあった。人の想いに宿った精霊は彼女を生み出し、ここに閉じ込めた。彼女は美冬ではあるが美冬ではない。精霊が在る間だけのかりそめの存在。本物の美冬は彼岸の彼方へと旅立っている。
……彼はそんな彼女を引き戻そうとしている。
船が出港準備を済ませ、汽笛を鳴らす。ゆっくりと離岸していく船を美冬はじっと見つめた。
ああ、なぜ私はここにいるのか。
なぜ彼と共にいられないのか。
理由はわかっていても納得できなかった。感情がそれを許さなかった。
なぜ私は美冬ではないのだろう。
美冬なのに美冬ではないのだろう。
こみ上げてくるものが溢れて頬を伝った。
彼に申し訳なかった。自分が美冬であれば彼は普通の人間でいられたのに……二度と引き返すことのできぬ道を選ばずにいられたのに。
せめて彼が無事でいられますように。
想いの精霊によって創り出された少女はゆっくりと目を伏せて神に祈るのであった。
**本作はこれで終了です。
お読みいただきありがとうございました!
……彼はそんな彼女を引き戻そうとしている。
船が出港準備を済ませ、汽笛を鳴らす。ゆっくりと離岸していく船を美冬はじっと見つめた。
ああ、なぜ私はここにいるのか。
なぜ彼と共にいられないのか。
理由はわかっていても納得できなかった。感情がそれを許さなかった。
なぜ私は美冬ではないのだろう。
美冬なのに美冬ではないのだろう。
こみ上げてくるものが溢れて頬を伝った。
彼に申し訳なかった。自分が美冬であれば彼は普通の人間でいられたのに……二度と引き返すことのできぬ道を選ばずにいられたのに。
せめて彼が無事でいられますように。
想いの精霊によって創り出された少女はゆっくりと目を伏せて神に祈るのであった。
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