「凪も帰ったことだし、いつまでもそこに立ってないで、座れよ。飲み物は缶酎ハイでいいか? まぁそうは言っても、ノンアルだけど」

 カウンターにいる葵がテーブルを挟む形で自分の目の前に置かれた椅子を指さす。

「……ああ、酎ハイでいい」

 仁は冷静な様子で頷いて、カウンターの椅子に腰をかけた。

「銀もいいな?」

「……うん」

 俺は仁の隣の椅子に座ってから、小さな声で頷いた。


 葵がカウンターの隣にあるキッチンのとこに置かれた冷凍庫を開けて、そこからいちご味の缶酎ハイをとってから、冷凍庫を閉める。

「はい。仁はいちごな」

 葵はいちごの缶酎ハイをテーブルの上に置いて言った。

「ん、サンキュ」

 仁は缶酎ハイを手にとると、フタを親指の爪で開けた。プッシュ!なんて音がして炭酸の泡が弾けて、消えた。

「あま」
 仁は缶酎ハイを一口飲んで、満足そうに呟いた。

「銀は何がいい? イチゴの他にはキウイと、グレープフルーツとオレンジとブドウがあるけど」

 仁に味の種類を教えなかった理由がわかった。
いちご以外は酸っぱい系だからだ。甘党の仁がこのラインナップでいちご以外を選ぶ訳がない。


「……グレープフルーツ」

「ん」

 俺が素っ気なく言うと、葵は冷凍庫を開け、グレープフルーツ味の缶酎ハイと、キウイの缶酎ハイを手に取ってから、冷凍庫を閉めた。

「はい」

葵は俺が座っている椅子の前にあるカウンターのテーブルの上にグレープフルーツ味の缶酎ハイを置いてから、キウイの缶酎ハイのフタを開けた。

「あー」

 葵が缶酎ハイを一口飲んで、声を上げる。とてもリラックスしているようだ。


 俺は缶酎ハイを飲む気になれなくて、フタを開けたが、口をつけはしなかった。