「そりゃあ、セクシーな下着着てばーんと迫るのが一番嬉しいとは思うけど」

「ムリムリ、私には絶対にムリです」

 第一、私たちは気持ちの伴わない契約結婚なのだ。一緒に暮らしてはいるけれど、寝室はもちろん別々だし、そんな関係に陥ること自体ありえない。

「まあ、ほぼ恋愛経験なしで結婚しちゃった夏美ちゃんにはそういう色仕掛けは難しいか」

「……すみません、経験値が低くて」

「まあ、そういうのはいずれね」

 なんて言いながら、綾さんが私に向かって意味ありげなウィンクをする。この分じゃ、そのうちランジェリーショップにでも連行されかねない。


「ねえ、最近は祖父江さんともあんまりゆっくりできていない言ってたわよね?」

「籍を入れてすぐはそうでもなかったんですけど、実際はこれが通常営業らしくって」

 お互いの顔を見て話ができるのは、朝食のときくらい。夜は拓海の帰りが遅くて、寝る前にちらっと話せるかどうかといった感じだ。
 
 大変な仕事なんだろうなとは思っていたけれど、拓海の忙しさは私の想像をはるかに超えていた。


「いつ寝てるのか不思議なくらいだし、食事もちゃんととってるかどうか……」

 このままでは、いつか体を壊してしまうんじゃないか。心配で仕方がない。

「そんなに心配なら、お弁当でも作ってみたらいいんじゃない?」

「お弁当、ですか?」