「今日だって祖父江さんが迎えに来てくれるんでしょ? ラブラブじゃないの」

「一人で帰れるからいいって言ったんですけどね。よっぽど心配性なんでしょうね」

「……夏美ちゃんって結構つれないわね。これは祖父江さん苦労するわねー」

 なんてため息をつきながら、綾さんはすいすいとワイングラスを空にする。


「ちゃんと祖父江さんにも愛情を返さないとダメよ。結婚してることに胡坐をかいてると、知らない間に相手の気持ちなんて離れて行っちゃうんだから」

 実は綾さんは、離婚を経験している。原因は彼女の仕事だ。強く望まれて結婚したものの、仕事が多忙を極め、没頭しているうちにすれ違い、お相手の方から離婚を切り出されたらしい。

「仕事に一生懸命な君が好きだって言われたから、相手も私の事情をわかってくれていると思ってたのよね。今思うと、言葉も態度も足りなかったわ。もっと自分の気持ちを正直に伝えていればよかった」

「結婚って、全然ゴールなんかじゃないですね」

 私が言うと、「そのとおり!」と綾さんが身を乗り出してくる。

「乾さんにも、旦那さんを大事にしなさいって言われたんですけど、どうやったらいいかわからないんです」

 契約結婚とはいえ、拓海は私のことを本当に大切にしてくれている。でも私も、彼と同じように……とはいかないかもしれないけれど、少しでも彼に返したいし、忙しい彼を労わりたい気持ちもある。

 でも、具体的にどういうことをすれば拓海に喜んでもらえるのか、恋愛経験の少ない私には皆目見当もつかないのだ。