「そりゃあかわいい新妻に一人で夜道を歩かせるわけにはいかないわよ。当然じゃない」

 仕事で遅くなるとかならともかく、飲み会なのに? 自分だけ遊んでいて、仕事をしていた拓海に迎えに来させるなんて、申し訳なくて仕方がないのだけれど……。


「それに……」

「なんですか?」

 むふふ、と意味ありげな笑みを浮かべて乾さんが言う。

「旦那さんも仕事があるから仕方ないけど、本当は夏美ちゃんと片時も離れたくないのよ。旦那さんの気持ち、汲んであげなさいな」

 普通の新婚さんならそうなのかもしれないけれど、うちはちょっとほかとは違うんだけどな……。

「あはは、そんなもんなんですかね?」

「あら、夏美ちゃんは違うの?」

 痛いところを突かれ、うっと言葉に詰まる。こんなところでうっかりボロを出して、おじさまの耳にでも入ったらたまらない。

「いや、まあ、そうかもしれないですね」

 しどろもどろになる私を、乾さんは照れていると勘違いしたらしい。「やだぁ、こっちまで照れちゃうじゃない」なんて言いながら、私の背中をバシバシと叩く。

「いい旦那さんじゃない。やっと捕まえたんだから、大事にするのよ!」

「がんばります……」

 大事にするって、なにをどうすればいいのかよくわからないけれど……。

「あらいけない。もう昼休みが終わっちゃう」

 「先に行くわね」と言う乾さんにうなずいて、私もスマホをポケットにしまい、乾さんのあとを追った。