「あ、あたりまえでしょ。毎日クタクタになるまで仕事して帰ってくる拓海のこと、放っておけるほど私は冷たい人間じゃないよ」

「そんなこと思ってないよ」

 ソファーに座ったまま、拓海が私に向かって手を伸ばしてくる。

「なに?」
 わけがわからず拓海の手を取ると、そのまま引っ張られ、拓海と一緒にソファーに倒れ込んだ。

「ちょっと拓海!」

「はは、引っかかったな」


 拓海の腕の中に閉じ込められ、抱きしめられる。頭や頬に触れられるのとはわけが違う、拓海の香りでいっぱいになって、心臓が音を立てる。

 こんなにくっついていたら、私の心臓の音が拓海にまで聞こえてしまうかもしれない。


「俺別に、世話を焼いてもらうために夏美と結婚したんじゃないよ」


 そんなこと、ちゃんとわかってる。無理やり結婚させられそうで困っていたから、契約結婚してくれる相手を探してたんだよね。そこでタイミングよく再会したから、私を選んだってだけだよね。


 こんなふうに拓海から距離を詰められても、勘違いしたりしないように。いつも言い聞かせてるのに。