親元を離れ留学もしていたせいか、拓海は身の回りのことはたいてい自分でできてしまう。自立した、大人の男性だってことなんだろうけれど……。

 事情ありの契約結婚とはいえ、一応私は拓海の妻なんだし、もう少し頼ってくれてもいいんじゃないのかな。

 幸い私が所属する庶務係は、休日出勤はおろか、残業もほとんどない。時間なら十分あるし、ごはんや洗濯物が一人分増えるくらいどうってことないのに。

 なにより、そんなに疲れた顔をした拓海のことを放っておけるわけがない。


「ねえ拓海は明日も朝早いの? よかったら、私が朝ごはん用意するけど……」

 こんなことを言っても、また断られちゃうかな? さすがに何度も断られると、心が折れそうになる。


 ソファーに座る拓海をチラリとうかがうと、彼は私のことをジッと見ていた。

「……なに?」

「いや、俺のこと気にしてくれてるんだなと思って嬉しくて」

 そう言って、私を見て柔らかく笑う。拓海の無防備な笑顔に胸がきゅんと疼く。