しかし拓海に余裕があったのは、入籍してしばらくの間だけだった。

 最近では拓海の仕事が急に忙しくなり、最初のころに比べて、一緒に食事をとるどころか、顔を合わせる機会もぐんと減ってしまった。

 たまたま案件が重なってしまったのかな、なんて思っていたのだけれど。


「ごめん、実はいつもこんな感じなんだ。新婚だからって親父が気を利かせて、少しの間だけ仕事をセーブしてくれてたらしい」

 ある日、珍しく早く帰宅した拓海がソファーに座り込むと、ネクタイを緩ませながら話してくれた。

「えっ、そうだったの?」

 私はキッチンに向かい、拓海に飲み物を渡そうとお茶を準備する。


 本来なら拓海に回って来るはずの案件も、お父さまが止めて、他の人たちに振り分けてくれていたらしい。しかしとうとう、みんな手が回らなくなってしまった。

「なんとか仕事が減るよう、調整もしてるんだけど……あ、ありがとう」

 お茶を手渡すと、拓海はぐいぐいと飲み干した。やっぱり疲れが顔に出ている気がする。