「湊人も拓海も、もういい歳なのよ。いいお相手を見つけて、一日でも早く幸せになって欲しいと思うのは、親として当然でしょう?」

 この結婚が本当は気持ちのないものだと聞いたら、お母さまはどんなに悲しむだろう。いたたまれない気持ちになる。


「夏美さん、拓海がアメリカに行っている間、寂しかったでしょう?」

「ええ、そうですね……」


 寂しいどころか、私は彼の存在を忘れていた(というか、忘れていたかった)くらいなんだけれど……。もちろんそんなことを言えるはずもなく、私は曖昧に微笑んだ。


「夏美さんがいらっしゃるって知っていたら、私はアメリカ行きに賛成なんてしなかったわ。こんなに長い間、恋人を待たせていたなんて!」

私のことより仕事を優先させてアメリカに渡ったことにも、お母さまは腹を立てていた。

「弁護士になるための修業なら、日本にいたってできたはずよ」

「あの……」

 周りを納得させるためとはいえ、二人でついた嘘でこれ以上拓海を悪者にしたくはない。私は、おずおずと口を開いた。