「そうですか、拓海とは大学の頃から」

「はい、所属していたサークルが一緒で」

「しかもあの清家名人のお孫さんだなんて! なんて素敵なご縁なのかしら」


 許嫁との婚約を蹴ったと聞いていたから、私との結婚は反対されるものと思い込んでいた。しかし予想に反して、祖父江家の人々は私のことを歓迎してくれた。

 祖父江弁護士事務所を背負って立つ、貫禄のあるお父さま。

 祖父江家に嫁いで来たときから専業主婦で、趣味はフラワーアレンジメントとお菓子作りだという、おっとりとしていてお茶目なお母さま。

 そして、体型もがっちりとして硬派な印象の拓海とはまた違う、スッキリとしていながらもどこか甘い顔立ちのお兄さまの湊人(みなと)さん。

 仕事やつき合いで多忙だろうに、祖父江家全員が揃って、私を出迎えてくれた。


「拓海ったら、こんなにかわいらしい方がいらっしゃるなんて、一言も教えてくれないんだもの」

 お母さまは、私の存在を内緒にされていたことが結構ショックだったらしい。

「いい大人が、自分の恋愛事情をいちいち親に話したりしないでしょう」

 兄の湊人さんがさらっと庇ってくれる。湊人さんはいずれお父さまの跡を継いで、祖父江弁護士事務所の代表になる人だと拓海から聞いている。