そうこうしているうちに、祖父江家に結婚のご挨拶をする日になった。


「だいぶ緊張してるな」

「当たり前でしょ」


 拓海の実家は、一瞬見ただけで回れ右したくなるほどの大豪邸だった。粗相のないように、失礼のないように。玄関の前で呪文のように唱えていると、彼からぽんと肩を叩かれた。

「いつも通りの夏美でいいよ。取り繕う必要なんてない」

「……本当に?」

 いつも通りの私って、スカートの似合わない、ちょっとがさつなところもある干物女子ですが……。本当にそれでいいの?

「いいんだよ、俺はそのままの夏美が好きなんだから」

「ちょっと、なに言って――」

 好き、だなんて。真面目な声でそんなことを言われると、思わずドキッとしてしまう。

「嘘じゃないぞ。俺は、歯に衣着せぬ物言いで、よく食べてよくしゃべる夏美のことを気に入ってるんだ」

「拓海、私のことバカにしてるよね?」

 やっぱり、拓海の悪ふざけだ。ドキッとして損したなんて思っていたら、拓海は思いのほか優しい瞳で私を見つめていた。