「ごめん、ちょっと大げさに言った。たぶん3個が限度」

「やっぱりね」


 まだ熱いコロッケに息を吹きかけ、冷ましながら齧っていると、拓海が私のことをジッと見ていることに気がついた。やたらと優しい目をして、私を見つめている、ような気がする。

「な、なに? 顔になにかついてる?」

 慌てて指先で顔を払う私を見て、拓海はくすっと微笑んだ。


「違うよ。やっといつもの夏美になったと思って、嬉しかったんだ」


 そういえば、懐かしい街を二人で歩いていたら、レストランで感じたような虚しさは消えていた。学生の頃に戻ったみたいに、二人でいることがただただ楽しかった。


「……夏美は、俺たちは住む世界が違うって言ったけど」

 食べ終えたコロッケの紙をくしゃりと丸め、しばらくその手の中を見つめた後、拓海が口を開いた。


「今は弁護士としてなんとかやってるけれど、学生の頃、いつも夏美と一緒にいた俺だって、紛れもない俺の一部だよ。そりゃ、世間に揉まれて少しは大人になったかもしれないけれど」

 少しなんてものじゃない。見た目はもちろん、立ち居振る舞いも、女性への気遣い方も、すべてが洗練されていて、拓海はすっかり魅力的な大人の男性になっている。