「あんまり食べないな。口に合わなかった?」

 ラストのドルチェを申し訳程度につついているときだった。拓海がすまなさそうに尋ねてきた。

「そんなことない、どれも美味しかったよ」

 本当だ。どの料理も手が込んでいて、とても美味しいと思う。


 ただ、思い知らされたのだ。やはり私と拓海とでは住む世界が違いすぎる。


 私は、拓海のように人目を引く顔立ちもスタイルもしていないし、ただの平凡なOLだ。

 車の免許は持っているけれど、あんな高級車に乗ったことなんてないし、老舗ホテルのレストランを、気軽にデートで使ったこともない。


「学生の頃はサークルのみんなで行くのも、安い居酒屋とか定食屋ばっかりだったから、ちょっと気後れしちゃった。でもこっちの方が、拓海が元々いた世界なんだよね」

 学生の頃は、拓海の方が周りのみんなに合わせてくれていたのだろう。ただ私が、知らなかっただけなのだ。まざまざとその差を思い知らされて、いいようのない気持ちが胸を塞ぐ。


「こんなにも、私たちって住む世界が違うんだね。思い知らされた」

 とりあえずお互いの不都合を遠ざけるためだけの契約結婚なのだとしても、こんなにも違い過ぎる二人が一緒にいて、うまくいくはずがない。


「……夏美、場所を変えようか」

「えっ」

 私の話を聞いてしばらく黙っていた拓海が、いきなり席を立ち上がった。

「行こう」

 拓海は私が口を挟む間もなく素早く会計済ませ、私をレストランから連れ出した。