拓海はとても真剣で、彼が本気で、力になりたいと思っているのがわかった。しかし、自分さえその気になればこの場を乗り越えられる、そんな自信もうかがわせていた。

 弁護士を目指しているだけあって、彼は面倒見もよく気遣いもできるタイプだ。友人たちの相談に乗っている姿も何度か見かけた。
 だからといって、今の拓海に、私のためになにができるというのだろうか。

「前に話したと思うけど、私どうしてもプロ棋士になりたいの。今年が最後のチャンスなのだよ。なんとか試験に残れてるけど、とても勝ち残れる気がしない。誰にも負けないくらい今すぐ強くなりたいの。拓海が、私のことを強くしてくれる?」

「それは……。でも、今からでももっとがんばれば……」

「馬鹿言わないでよ。そんな時間なんてないよ。今月中にはもう結果が出てるのよ」


 次々に捲し立てる私に、拓海は言葉を失っていた。彼にこんなに感情をぶつけたことは、今まで一度もない。

「しかも、生徒さんが次々辞めちゃって、亡くなった祖父から引き継いだ囲碁教室を潰しそうなの。これで試験に落ちたりしたら、今残ってくれてる生徒さんたちもみんな辞めちゃうかもね。どう、拓海にどうにかできる?」

 こんなの八つ当たりだ。自分でもわかっている。でも、止められなかった。


「同情も気休めも、私にはいらない」


 拓海を外に置いたまま荷物を取りに戻り、私は飲み会を途中で抜け出した。