サークルの仲間たちはもうほとんどが就職を決めていて、あとは卒論の提出を残すのみ。優秀な子が多いのか、卒論もほぼ完成しているという人も多かった。
誰もが春休みや卒業旅行の計画なんかを楽しそうに話す中、私は肩身の狭い思いで居酒屋の隅っこで淡々と飲み続けていた。
「夏美、飲んでる?」
「うーん、まあまあ」
居酒屋のすみっこで、ちびちび一人酒を呑んでいる私に気を遣ってくれたのか、絵梨が隣の席にやってきた。
彼女は私と同じ経済学部に所属していて、アナウンサーになるのが小さい頃からの夢だった。
そんな絵梨は大学に通うかたわら専門学校でアナウンスを学び、北は北海道から南は沖縄まで、全国の放送局の試験にチャレンジしていた。
懸命な努力のかいあって、絵梨は九州にある地方局のアナウンサーとして、内定を勝ち取った。今夜この飲み会の場でみんなに報告して、拍手喝さいを受けていた。
「夏美は、その後どう?」
「……厳しい、かな」
囲碁棋士のプロ試験を受けられるのは、23歳未満まで。今年が最後のチャンスである私は、試験に全てをかけた。もちろん試験と並行で就職活動なんて行う暇はない。
全てを切り捨ててがんばってきたのに、今のままじゃ、私がプロになれる確率はたぶん限りなく低い。
「……そっか。でも、がんばって。応援してる」
「ありがとう、絵梨」
私の調子が悪いことは、たぶん彼女の耳にも届いているはずだ。それ以上、なんと声をかけたらいいのかわからないのだろう。絵梨はそれきり、口を噤んでしまった。
「ちょっと飲み過ぎたかも、外の空気吸ってくるね」
「いってらっしゃい」
気まずさに耐えかねて立ち上がると、絵梨はホッとした顔をしていた。