「夏美は、本当に俺でいいの?」

 拓海は私に抱かれていたこなつを床に離すと、私の前に立った。

「まあ嫌だって言われても、もう離すつもりなんてないけど」

「……拓海」

 真剣な彼の瞳に射抜かれ、鼓動が早くなる。彼は私の左手を取り、薬指にはまったマリッジリングをゆっくりと引き抜いた。

 自分の分も抜いて、それを私に握らせる。


「夏美、俺、心から愛してる人がいるんだ。その人のこと、一生をかけて幸せにしたい。……だから、契約は破棄してくれないか?」

 息を詰めて、続きの言葉を待つ。ドキドキし過ぎて、今にも心臓が破れてしまいそう。

 拓海は優しい目で私を見つめると、そのまま左手を取った。ゆっくりとその場に跪く。

「夏美。すごく時間がかかったけれど、やっと言える。俺、ずっと夏美のことが好きだったんだ。だから俺と、結婚してください」

 私の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

 ずっとずっと、その言葉を待ち望んでいた。あなたの愛が、いつか私に向けられたらいいのにと願っていた。

「私も、拓海のことが好き。……絶対に離さないで」

 涙まじりの声で、拓海に愛を伝えた。

 拓海の目が大きく見開かれた。一度大きく破顔すると、私の頬にこぼれる涙を、ひとつひとつ唇で受け止めてくれる。

「……ありがとう夏美。ちゃんと最初からやり直そう」

 緊張した面持ちで、拓海が私の手を取る。かすかに震える指先でリングを持つと、私の左手の薬指にはめてくれた。