「仕方がないじゃない。ろくに恋愛経験ないんだから」

 昔のことだって、確かに他の子たちよりは拓海と一緒にいる機会が多いなとは思っていたけれど……。
それはお互い気が合うからで、みんなと違って拓海のことを特別扱いしない私といて、気が楽だからだと思っていた。

「最初はそうだったんだよ。夏美は俺をひとりの普通の友人として見てくれて、それが単純に嬉しかった」

 有名な弁護士事務所に生まれ、将来も決められている。優秀な兄と比べられることも多く、整った容姿も相まって、周囲の理想像を押しつけられることが多かった。

 自分でも気がつかないうちに、ストレスをため込んでいることも多かったという。

「最初は気の置けない友人に過ぎなかったけれど、いつの間にか夏美のことを独り占めしたくなってた。夏美はプロ試験のことも周囲にはあまり漏らしてなかったけれど、俺になら頼ってくれるんじゃないかって。今思えば、夏美にとって俺は特別な存在なんだって勝手に過信してたんだ」

 でもあの時の私は、拓海の厚意を突き放した。あえてひどい言葉を選んで、拓海のことを深く傷つけた。

「本当はあの時、夏美に告白するつもりだったんだよ」と力なく拓海が言う。

「でも俺は、自分の気持ちを押し付けるばかりで、夏美のことをなにも見てなかったんだなって思い知らされた。夏美がそこまで追い詰められてるって、全然気がついてなかったから……」

 それ以降、拓海は私に話しかける勇気すら失くしてしまったという。