『そう。……よかった。夏美は俺なんていなくても平気なのかって、不安になったんだ』

 心から、そう言ったように思える、深いため息まじりの声だった。

 拓海ったら、どうしてこんなことを……。

『明日帰る。日本に着いたら、まっすぐうちに帰るから』

「……わかった、私も明日は定時で帰る。拓海のこと待ってるね」

『ああ、おやすみ』

 噛みしめるような声がして、そして、電話は切れた。



 翌日、拓海は本当に羽田からどこにも寄らずに帰って来てくれたようだ。19時過ぎには、うちに帰って来た。

 玄関が開く音がすると、今まで姿を消していたこはるが、部屋の隅から飛ぶように走っていく。

「ただいま~、寂しい思いさせてごめんな~」

 玄関の方から、拓海がこはるをあやす声が聞こえてくる。よかった、こはるもこれで元気を取り戻すに違いない。

 二人の邪魔をしないように、キッチンからそっと近づいた。


「おかえりなさい」

「ただいま! あー、夏美だ……」

「ちょ、ちょっと拓海!?」

 よっぽど疲れていたのだろう、私を見たとたん、拓海は脱力したかのようにしがみついてきた。