「なるほどね……」

 拓海の本当の気持ちは、今でも佐奈さんにあるのかもしれない。そのことを告げると、綾さんは真剣な顔で私を見た。

「夏美ちゃん、酷なことを言うようだけど、私ならそんな結婚は今すぐやめるわ」

「綾さん……」

「私ね、仕事を理由に離婚を切り出されたとき、仕事を辞めて家庭に入るからやり直したいって言ったの。でも向こうにはすでに好きな人がいて、ダメだった」

「そうだったんですか……」

 綾さんにとって、この話はふさがることのない傷なのかもしれない。彼女の口から、離婚の詳細を聞くのはこれがはじめてだ。

「他の人を想っている人と、一緒にいるのはつらいよ。夏美ちゃんには、私と同じような思いをして欲しくない。……そんな結婚なんてやめて、本当に夏美ちゃんのことを愛して幸せにしてくれる人と結婚してほしいの」

 たぶん綾さんの言っていることは正しい。一緒にいることがつらい結婚生活なんて続けていけるはずがない。

「決めるのは、夏美ちゃんよ。でも私は今すぐにでもやめてほしいって思ってる」

 どうするか決めるのは私。私に、拓海から離れる選択ができるのだろうか。


 その夜、家に帰りたくないという私に、綾さんはとことんつき合ってくれた。