自分の気持ちを言葉にできずにいると、拓海が先に口を開いた。

「俺さ、夏美は指導者に向いていると思うよ。夏美の指導って根気強くて丁寧だし、教える相手を見て、指導の仕方を変えてるだろ?」

 たしかに、私が教えるときはその相手の性格や特性を見て、個別に指導法を考えるようにしている。

「あの茉莉花ちゃんって子はさ、負けん気は強いけど、若いこともあってまだまだメンタルが弱い。夏美に真正面から挑む強気な面もあるけど、いざ勝負に負けてしまうと、結構落ち込むタイプなんじゃないかって見ていて思ったんだよな」

「すごい、その通りだよ。拓海よく見抜いたね!」

「一応職業柄、物事は客観的に見るように努めているよ」

 私たちの対局を見ながら、そんなところまで見ていたのか。あらためて驚かされる。

「対局が終わったあと、夏美は今日の対局の内容に言及するんじゃなく、とにかく彼女の成長ぶりを褒めてただろう。次はもう敵わないかもしれないって」

 今日の内容なら、茉莉花ちゃんほど腕がある子なら、自分で振り返ることができる。きっと課題にも自分で気が付くだろう。

「うん、負けて落ち込むことより、次勝つことを考えろって。おじいちゃんにもそう言われてきたから」

 負けた理由を振り返ることも大切だけれど、負けた事実だけにとらわれてほしくない。