「疲れたけど、気力が充実してる感じ。露店を巡るのも楽しかったし、射的も。次はもっとうまくできる気がする」

「それに、囲碁もできたしな」

「うん。あのイベントがあったから、拓海はわざわざここまで連れて来てくれたんだよね?」

 拓海はそれには返事をせず、わずかに目元を綻ばせた。

 あんな環境で囲碁を打つのは初めてのことだった。どちらかというと私は、自分の進退をかけた真剣勝負の場にいることが多かったけれど、あんなふうに娯楽としての囲碁もあるのだ。参加していた人たちも、とても楽しそうだった。


「あの茉莉花ちゃんって子は、夏美の教え子なんだよね」

「私のっていうか、祖父のね。私もずっと教室を手伝ってたし、彼女と対局することも多かったよ」

 こんな私のことも、先生って呼んで慕ってくれていた。そんな彼女の成長ぶりを目の当たりにできて、嬉しいようなほんのちょっと寂しいような複雑な気持ちだ。

「茉莉花ちゃんも言ってたけど、夏美は本当にもう教室をやらなくていいの?」

「それは……」

 本当のことを言うと、聖司さんや茉莉花ちゃんにあんなことを言ってもらって、ぐらぐらと気持ちが揺れている。