「先生は、どうして教室を辞めちゃったんですか?」

「どうしてって……」

 そんなことを訊かれても、言葉に詰まってしまう。あの頃のことをどう説明しようか考えていると、茉莉花ちゃんがもう一度口を開いた。

「私は、大先生と夏美先生に囲碁を教えてもらうのが好きだった。今は強くなるために一生懸命だけど、清家教室に通っているときの方が、ずっとずっと楽しくて、囲碁のことが大好きでした」

「茉莉花ちゃん……」

「もし夏美先生がまた教室を開くのなら、私は戻ってきたいって思ってます。そのときは、私をまた入会させてください。夏美先生が、私をプロにしてください。よろしくお願いします」

「……ありがとう」

 茉莉花ちゃんの言葉に感動してしまった私は、ただその一言しか言えず、しばらくその場に立ち尽くしていた。