「えっと……」

 花火大会がはじまるまで、もうそんなに時間がない。

 今日は拓海も一緒だし、せっかくだけれど断るしかないかな……。なんて思っていると、「久しぶりに教え子に会えたんだろ。時間は気にしなくていいから、受けてあげなよ」と優しく言ってくれた。

「……拓海、ありがとう!」

「せっかくだから、俺も観戦させてもらうよ」

 茉莉花ちゃんの彼氏も近くに呼び寄せて、私は5年ぶりに彼女と向かい合った。


「よろしくお願いします」

 すっかり大人っぽくなった茉莉花ちゃんの声と、私の声が重なる。

 この5年の間に、茉莉花ちゃんはメキメキと腕を上げていた。

「茉莉花ちゃん、今はどの先生に師事してるの?」

「園田聖司先生です。母がたまたま募集が出ているのを見つけてきて」

「げっ、園田……」

 私の隣で対局のようすを見守っていた拓海が、嫌な顔をしていた。そんな拓海を見て、茉莉花ちゃんが不思議そうな顔をしている。

「そっか、茉莉花ちゃんは園田先生に囲碁を習ってるのね」

「お忙しい方なので、常駐してるのは他の先生ですけど。たまに教室に顔を出してはアドバイスをしてくださいます。……厳しい方ですよ」

 自分も毎週のように対極に挑み、記録を更新しながらさらには後進の育成にまで手を広げているなんて。聖司さんの努力と行動力には、本当に頭が下がる想いだ。