「やったー、ミルクがけかき氷ゲット!」

「くそっ、なんで勝てないんだよー」

 勝負は思っていた以上に白熱したけれど、結局はいつものように私が勝利を収めた。

 自信満々で勝負に挑んだ拓海だったけれど、最後はあっさり私に負けてしまい、悔しそうにしている。

「だいぶ人が増えてきたな」

 勝負に熱中していたせいで、いつの間にか日は翳りはじめ、夜の花火大会に向けてさらに人手が増えていた。

 大会はこの後も続いて、花火をバックに囲碁も打てるらしい。そんな状況で囲碁ができるなんて、ちょっとした非日常だ。


 二人で使った碁石を片付けている時だった。

「……夏美先生?」

 浴衣を着た、高校生くらいの女の子に声をかけられた。

「えっ、茉莉花(まりか)ちゃん?」

「はい、お久しぶりです夏美先生」

 小学生のときから、うちの教室に通っていた女の子だった。ショートだった髪も伸びて、すっかりお姉さんらしくなっている。


「お祭りに来たの?」

 よく見ると、彼女の後方に、背の高いスポーツマンタイプの男の子が立っている。デートだろうか。私と目が合うと、ぺこっと頭を下げてくれた。

「それもなんですけど、囲碁の大会があるって聞いたから」

「茉莉花ちゃん、まだ囲碁を続けてるの?」

「はい。夏美先生の教室を辞めたあとは、別の先生のところに通ってます。私、プロの棋士になりたいんです」

 ……そっか。茉莉花ちゃん、プロを目指しているんだ。

「夏美先生、お時間まだありますか? よかったら、私と一局勝負をしていただけませんか?」