トーナメント戦とかなら出ずにおこうかと思っていたけれど、そういう趣旨なら気軽に参加できそう。

「地元の囲碁同好会の主催なんだって。ほら受付してこよう」

 少しずつその気になっていると、拓海がポンと私の肩を叩いた。


 拓海と並んで、受付に名前を記入して参加費を払う。無事に受付を済ませると、スタッフの人から冷たいドリンクとこの辺りの伝統工芸品だという渋うちわが渡された。

「えっ、このうちわ可愛い」

 柿渋で染めた少し小ぶりのうちわに、真っ赤な金魚が数匹描かれている。

「夏美、見て。俺のもなかなかのもんだぞ」

 拓海が手にしているのは、全体を青墨で染めたシックな渋うちわだ。下の方に、赤い色で工房の印が押してある。

「こんなにいいものを景品でもらえるの?」

「特産品のうちわを広めるのも目的らしいからな」

 たしかに、こんなに大勢の人が行き交う場所で、風流に囲碁を打ちながら金魚や水玉模様のうちわを仰いでいたら、目を引くだろう。

「対戦相手は自分で決めていいらしい。というわけで、一局お願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 噴水横の涼しめの場所にある縁台を陣取り、碁盤を挟んで拓海と向かい合う。拓海とはもう何回も対戦しているから、今さら緊張することもない。

「買ったら今日はかき氷ね」

「俺が負けたら、ミルクがけにしてやるよ」

 拓海ったら、負ける気ないの? すごい自信だ。

「絶っ対に負けないから!」

 高らかに宣言して、私は拓海との勝負に挑んだ。