電車がゆっくりと発車し、ホームには私と和泉くんだけが残っていた。


そして私は和泉くんの胸元に。


「……すまん」


「……いや、大丈夫です」


そう言って掴んでいた私の腕をはなした。


腕を引かれた感触がまだある。


女子にはない大きな手、だったと思う。


そうか、私はさっき勝手にドキドキしていたあの和泉くんの腕に引っ張られたのか。


なんて和泉くんの腕を見ながら思った。


「あの、ほんとすまん。夜遅いのに引き止めて。けど滝川のこと、応援したくて……」


「え?!」


和泉くんの言葉に急に我に返った。


「だから、滝川のことを……」


「やっぱり滝川くん、友恵のこと好きなんですか?!まじか!まじか!えー!めっちゃ嬉しい!!やっぱりそうですよね!」


1人で喜んでいるとクスリと和泉くんに笑われた。


「すげーにっこにこ」


……はずい。



「でもそうか。梨川も滝川のこと好きなのか。」


滝川くんの目は優しい。友だち思いの証だ。


「あいつ、今頃テンパってるな」


「滝川くんがですか?」


いつも余裕そうな感じなのに。


「部活とかバレーに関しては強気なのに、好きな子に対しては結構弱い。」


……男子が、「好きな子」とか言うのが新鮮な気がする。男子と恋バナとかしないからかな。


それにしてもあの滝川くんが好きな人を目の前にすると、奥手になるのはわかった気がする。


「だから帰り道あんまり話さなかったんですね」


「そそ。あんなド緊張してる滝川はレアだ。」


そんなに緊張してる感じはしなかったけどな。


滝川くんはカバンを持つ手を変えて今度は右肩に背負った。


「でも、あいつらうまくいくといいな。」


「ですね。全力応援します!」


今度は滝川くんはハハハと柔らかく笑った。バカ笑いしないところにすこし、この人いいなって思った。少しだけどね。


「ていうかなんで敬語なの?」


「え、初対面ですし……」


「同クラだし同級生だし敬語はやめて」


そうか同級生なのか!


大人っぽい笑い方とたくましい体つきは上級生と錯覚させる。


「……雰囲気年上だもんなあ」


「そうか?!」


ぼそっと言ったのに聞こえてた!耳いいんだ。


そんなくだらない話を続けていたら次の電車が来た。時間が経つのがいつもより早かった。