「じゃあ、雛。行ってくるね!」


「雛〜〜。ゴールで待っててね…。」



明るい声色の芽衣と、正反対の和華。


スタートの合図と共にみんなが走り出す音がする。

この勢いのある沢山の足音は、わたしにとっては少し怖い。


少ししたら次のクラスが走り出すから、またこの音がするんだ…。
いやだな、耳塞ぎたいな。



「ーー雛。」



ギュッとただでさえよく見えない目を瞑っていたら。
声と共に、ふわっと頭になにかがかかってきた。


この声に、この香り…。



「夜空…?」


「そうだよ。
ごめんね、全然様子見に来れなくて。
僕、体育委員だから。ちょっと忙しくて。」


「ううん、大丈夫…。
これ、夜空の…?」


「うん、僕のジャージ。
暑くなるだろうから、雛持ってて。
……これなら少しは遮られるでしょ。」


「え、今なんて…?」



最後、なんて言ったの?


聞き返す間もなく、スタートの音がして。
夜空は走り出した。