「ふふふ。今来るから」
佐和子はどこか楽しそうに声を弾ませ、オートロックを解除して玄関へ向かった。
まだ食べ終えていない美紅も朝食どころでなくなる。自分の身になにが起ころうとしているのか、さっぱりわからない。
わかっているのは、佐和子が結婚のためにこのマンションを出ることだけだ。
「入って入って」
ふたり分のスリッパの音が聞こえた直後、佐和子と訪問者がリビングに入ってくる。
あ、れ……?
現れた長身の人物を見て、立ち上がりかけた美紅は変な体勢のまま固まった。
「美紅、久しぶりだな」
男が爽やかな笑みを浮かべて手を上げる。
ドラを鳴らしたかのように、美紅の心臓が大きな音を立てた。
「嘘……いっくん……?」