「それでね、幸司くんからなるべく早く一緒に暮らしたいって言われてるの」
「幸司さんのマンションで暮らしはじめるの? それともここ?」


このマンションは不動産業を営む、美紅たちの父親の持ち物。湾岸の人気エリアに建つタワーマンションだ。3LDKという贅沢な造りのため、新婚生活を送るにも十分だろう。


「幸司くんの住むマンションがね、ちょうど契約が切れるらしいの」
「あ、じゃ、こっち?」


だとすれば、美紅はここを出ていかねばならない。
二年間親もとを離れていたから、両親も美紅のひとり暮らしにはそろそろゴーサインを出すのではないか。


「私なら大丈夫だよ。ひとり暮らしくらい平気だから。いつ引っ越してくる?」
「なるべく早いうちにと思ってるんだけど」


佐和子が申し訳なさそうにするのは、美紅をここから追い出すような形になるためだろう。
でも、そこは気にしてほしくない。美紅はオーバーなほど明るく問いかける。