「ちょっ、いっくん!」


その胸を押してぴょんとうしろに飛びのいた。


「ただの挨拶じゃないか」
「ここはイタリアじゃないからっ」
「そうか。うっかり忘れてた」


一慶は悪びれもしないどころか、ニッと笑った。うっかり忘れていたよりは、美紅をからかっていると言ったほうが正しい。


「先が思いやられるんですけど……」
「なにか言ったか?」


ボソッと呟いた美紅に一慶がぐっと顔を近づける。離れようとして反射的に体をのけ反らせ、体勢を崩したが――。


「ひゃあっ」


一慶が咄嗟に美紅の腰を引き寄せたため、尻もちも頭への強打も免れた。その代わり再び彼に抱きしめられ、鼓動が大騒ぎをはじめる。ふわりと香った爽やかな匂いに目眩を覚えた。


「ほんっと危なっかしい。美紅は変わらないな」