世界的に有名なデザイナーのため、華々しい活躍ぶりはテレビや雑誌を見て知っている。恋人とのツーショットをスクープされるのもたびたびあった。
そんな女性がいたら、美紅との同居はその彼女にとって喜ばしいものではないだろう。単なるルームシェアだとしても、美紅が逆の立場だったら絶対に嫌だ。
「いないよ」
「嘘だぁ」
「ほんと」
頬杖をついて真っすぐ見つめてくるものだから、嫌でも鼓動が飛び跳ねる。
でも美紅は知っている。一慶は昔から佐和子を好きなのだ。
さすがに結婚を決めた佐和子を彼氏から奪いはしないだろうが、美紅との同居を決めたのは、もしかしたら失恋でやけくそになったからなのかもしれない。
そして、佐和子を好きなのは一慶だけではない。双子の弟、晴臣もそうだった。
たいていの男の子はみんな、佐和子を好きだっただろう。
美人で聡明でおおらか。同性からも慕われ、向かうところ敵なし。それが佐和子だ。
そんな姉をもつ美紅だが、佐和子が『美紅は誰よりもかわいい』『美紅は私の一番の友達』となにかにつけてかまってくれたおかげか、〝私なんて〟と卑屈にならずに済んだのは幸いだろう。