「重たい空気って?」

「里咲が今朝から纏ってるその空気。……隣にいるだけで鬱陶しいんだけど」

「……別に本読む邪魔にはなんないでしょ」

「まぁね。でもそんなあからさまに凹んでるんじゃ、構って欲しいって言われてるみたいで少し迷惑」

「……間違っても宮城なんかには構って欲しいなんて思ってないからご安心をっ

ってゆうか! あたし的にはあんたの取り巻きのが迷惑だよっ!

人が失恋して落ち込んでるのにあんな楽しそうにキャッキャッしちゃってっ……」


言ってからしまったと思った。

わざわざ失恋した事をこんな男に話す必要なんかなかったのにっ……


思わず興奮してしまった事に少し後悔しながら口を閉じると、宮城は「やれやれ」と言った様子で視線を本へと戻した。


「失恋なんてしょうもない事でそこまで落ち込めるなんて、ある意味すごいけどね」


捨て台詞って訳じゃないけど、ポツリと宮城が零した言葉に、あたしは過剰に反応する。

失恋なんてしょうもない事??!

ちょっと聞き捨てならないんですけどっ


「ちっともどうしょうもない事なんかじゃないんですけど」

「『恋愛』なんて感情論に振り回されて落ち込むなんてくだらないだろ。

恋愛で相手に夢中になりすぎるなんて、正常な判断の出来なくなった奴らが陥る失敗だ」

「そんな事ないっ!!」


宮城の言葉をすぐに否定したあたしに、宮城がゆっくりと視線を移す。

その瞳は驚いている訳でもなく、いつものように無感情を映し出していた。


そんな宮城に、あたしは手をぎゅっと握り締めながら言葉を繋ぐ。


「そんな事ないよ……あたしは確かに振られたけど、だけどそれを失敗だなんて思わないもん!

結果的には報われなかったけど……それは失敗なんかじゃない!

……一生懸命頑張った結果だもん。絶対に失敗なんかじゃないっ」

「……」


熱くなったあたしに温度差を感じたのか、宮城は何も言わずにあたしを見ていた。

……冷めた視線をそのままに。

前から思ってたけど、宮城のこの冷めた目は結構挑発的だ。

あたしの負けず嫌いの性格をここぞとばかりに引き出してしまう。


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