そいつの拳は、誰に当たることもなく空中で空振っただけだった。
「んな…っ」
「モタモタすんなよ。隙がありすぎ」
そういうや否や、彼はそいつの腕を捻じ上げた。
「いたたたたたたたたた!」
と叫ぶそいつ。なんだか見てて気持ちいいのは俺だけか…。
「は、はなせ!」
「離してください、だろ」
「ひいい、は、はなして、くだ、さい…」
こ、怖。
これが俗に言う“殺気”というものなのか。
「はいよ」
と彼はそいつを放した。
「ご、ごべんじゃしゃいっ!」
ちょっと意味不明な言葉を発しながら、そいつらは逃げていった。
それをやれやれと見送った彼は、俺と視線を合わせた。
「大丈夫?」
と手を差し伸べてくれる。