「ちょっとー! 暁斗くん! 捜したんだよ⁉ ほら、もう当番の時間でしょー! サボらないでよね!」


 いきなり同じクラスの女子が、教室の扉を開けて入ってきた。

 そして恨みがましそうな顔をして、暁斗を引っ張っていく。

 暁斗は女子に引っ張られながらも、私の方を一瞥した。

 どこか寂しげに見えた顔。

 暁斗は一体何を考えているのだろう。


「……ごめん。すぐやる」


 暁斗は私から目を逸らすと、女子の方を向いて言った。

 「もう、暁斗くんが来ないと私遊びに行けないんだから~」と言う彼女と一緒に、教室から出て行ってしまった。

 ひとり、空き教室に取り残された私。

 さっき暁斗は私に何を言おうとしたの?

 ――花梨。俺、本当は。

 その後何を言おうとしたの?

 もう偽物の恋人なんてやめようとか?

 ……本当に付き合おうとか? 

 なんて、うぬぼれすぎな考え……だよね。

 暁斗は、今は無理に誰かと付き合う気はないって、去年言っていたんだ。

 それから暁斗の私に対する態度はなんら変わっていない。

 つまり、まだ私とも恋人になる気はないってことだと思う。