……まずい、まずいぞ。

 彼女が颯爽と教室に入ってくると、男子からため息が聞こえてきた気がした。

 ピンと背筋を伸ばして歩く彼女は、一番後ろの席の私が見ても、それだけで美しかった。

 そして彼女が教壇の前に立ち、そのご尊顔をみんなに披露すると、「……かわいい」と私の隣の男子がぼそりと呟くのが聞こえた。

 確かに彼女はとてもかわいらしかった。

 元々小顔だが、さらにそれを引き立てるショートボブのサラサラの髪。

 宝石のように大きな瞳に、雪のように白い肌、ピンク色の形の良い唇。

 彼女を見た十人中十人が、美少女と呼ぶだろう。

 私は驚いていた。

 こんなにかわいい子が、うちのクラスに入ってくるなんて。私ピンチなんじゃない⁉

 ――いや、そういう気持ちで驚いたのではなかった。

 もちろんそういう思いも少なからずあったけれど。
 
 私は彼女のことを、よく知っていたのだ。


「瑠璃⁉」


 だから思わず、席から立ち上がりながら名前を呼んでしまった。

 すると瑠璃は、目を丸くして私の方を見てから、花が咲いたようにかわいらしい笑顔を浮かべた。