うそだよ、うそ。ぜんぶうそ。



いつも守るどころか放置して、離れてたじゃんか。


一体、いつ、あたしの味方になってくれた?



『組長にも考えがあってのことっすから』

『気持ちをわかってやってください』

『部屋にいたほうが楽だろう』



何をわかれって言うの。


考えも、気持ちも、気楽さも、知らないのに。


教えてくんないじゃん。

あたしの気持ちまで無視しやがって。


そんなんでわかってやれっか!



うそつき。

本当に守ってるなら、あたしの何を守ってるのか言ってみろよ。




「……おまえは、」




ため息まじりに、ポツリ、つぶやかれた。

その低い音が父さんのだとは、すぐに反応できなかった。




「ひとみは……ふつうになりたくてもなれない、だろ」


「……は? だから?」


「今みたいに苦しんで、泣いて、吐いて、忘れようとしてまた苦しんでる姿を、これまで何度見てきたと思ってる。ただでさえこんな家だ。ひとみの目には、さぞかし醜く見えているだろう」




記憶がうすれているだけで、きっと何度もうずくまっては血を吐いていたんだろうな。

もうほとんど憶えていないけれど。


小学生のときも、中学生のときも、ずっとずっと昔のことも、あたしにとってはその程度のことだった。



醜く見えるときもあったよ。

今でも息が詰まりそうになる。


この瞳とヤクザは、相性がわるすぎる。



でも、ここが、あたしの家だから。
あたしが産まれ堕ちた場所だから。


受け入れなくちゃ、それこそ、自分が醜くなってしまいそうだった。