黒い、黒い感情が、黒い、黒い渦を招き入れ。

よどみ、濁り、嗤い、けがれて。


あたしだけに、ソレらが突き刺さるとき。



あたしは。


あたしの、透けた眼球は。



痛くて、痛くて、つぶれてしまう。




「……っ、ごふっ、」




ポタリ、ポタリ。

にぶい黒のシミが畳につく。


いいや、これは、赤……か?


口を拭えば、案の定、手の甲には鮮血がついた。




「お、お嬢……っ」


「ひ、ひとみ……ち、血が……!」


「ひとみ。命令だ。部屋に戻りなさい。今すぐにだ!」




あらあら。めずらしく真っ青になってるよ、父さん。

兵吾郎はいつものことだけど。


どうしちゃったのさ。らしくない。




「は……ハハッ」


「何を笑ってる! また血を吐きたいのか!」


「だって、おかしくて」


「おかしいだと?」


「父さん、もしかして、」


「笑える元気があるなら、さっさと……」


「気づいてた?」


「っ」




その反応、図星も図星。大当たり。

そうかそうか。


うん、でもね、父さん。


あなたの考えていることとは、残念なことにちがうよ。




「この血は、ただの血だよ」


「ただの、って……血は血だろうが!!」


「魁運は心配しすぎだよ。ダイジョーブ」


「ひ、ひとみ様……本当に、大丈夫なんですか?」


「うん。あたしはつぅちゃんとはちがうんだよ」




白鳥家の巫女の血を授けられた者は、ふつうにはなれない。


――それじゃあ、あたしは?