黄色味のある照明のまぶしさ。

壁にかけられた長時計と鬼の面。

いかつい男たちの揺れ惑う眼光。



……そんなものよりも。




「っ、痛い……」


「お嬢……?」




痛い。

苦しい。

悲しい。



だいっきらいな藍色の大群以上に、うごめき、はびこる、ひどくまがまがしい黒。


あたしの知ってる黒じゃない。



あの、足のないヒトたちは、泣いてる。怒ってる。憎んでる。



殺伐とした血のにおいをまとう藍色を。

毒林檎を丸飲みしたような、ならず者を。



この身体をかよう、白雪の血を。




「っ、は、……ぅ、」


「ひとみ! だいじょ…………ひ、とみ?」


「……っ」


「……なんで、泣いて……?」




目尻を裂くのは、本当に涙なのか。

汗だったのかも、わからない。



一斉にあたしに矛先を向け、狂ったように責め立てる死人に――白雪の被害者たちに、いやでも思い知らされる。




「ぐ、……おぇっ」


「だからあれほど注意したんだ」




胃液をまき散らせば、向かい側のふすまが開かれた。


目つきのわるい老け顔。

愛用してる、上物の羽織り。


数ヶ月ぶりでも変わらず対峙した、その男が、呆れながらあたしを見下ろしている。



背に、魁運のとは明らかに異なる気配を背負って。




「父さ……っ」


「部屋でおとなしく寝ていろ、と」




――白雪組。

法の外で死に生きる、極悪非道なヤクザ。



そうだ、ここは。


むせ返るほど、真っ黒な世界。




「おまえの部屋が一番マシだというのに」




そりゃそうか。

罪の数だけ怨霊がのしかかる。


いくつもの業を背負ったヤツらが集まれば集まるほど、あの半透明の黒たちはおぞましくひしめき合う。



白雪の人間を、それはそれは、殺したいだろう。