「汚ねえ手ぇ離せっつってんだろ」
「え。キャラ大丈夫か?」
「あ、彼はこれがデフォなの」
「間抜け面してていいのかよ? あぁ?」
口のわるくなった赤羽くんは、戦闘モード。
振り上げられた拳は、さっきのより速さも重さもケタちがい。
……あたしだって。
狩られるより狩る派だし。
それに何より。
あたしのかっこいいところでも見て、惚れ直してよ、ダーリン。
「よいこら、せっ、と!」
「ひ、ひとみ!?」
魁運の肩をぐっとつかみ、バランスよく逆立ち。
かーらーのー。
赤羽くんを蹴り飛ばし、宙返り。
「きまった! ……とっとっと!?」
全然きまらなかった。
着地した足がふらついて、トン、トン、とリズムを踏むと。
開きっぱなしのふすまにダイレクトにぶつかった。
「ひとみ様!?」
「ひとみ……!」
「イタタ……。かっこよくないなあたし……」
ふすまと一緒に室内へGOしちゃったよ……。
だっさ。これじゃ惚れ直してもらえないかも。
「お嬢!? なぜここに!?」
畳ですりむいたひざ小僧を気にしていたら、頭上から兵吾郎の声が。
他にも「お嬢!?」「お嬢だって!?」と野太い声が続く。
「お嬢、抜け出してきたんですか!? だめじゃないですか!!」
「あーもう! うるさいなあ!!」
あたしだって今日逃げる予定じゃなかったよ!
でも魁運が来てくれたんだから逃げるよ! 逃げるに決まってんじゃん!
許さなくても全然いいから見逃してよ! お願い!
……と、言おうとした。
言おうとして、やめた。
顔を上げて、何も言えずに、眼を見開いた。