会えても、触れても、幸せじゃない。
まだ全然足りない。
あたしの心臓も、早く壊して。
「ひ、とみ……、ひとみ……!」
あたしの名前。
魁運が紡ぐと、どうしてこんなにも特別に思えるんだろうね。
鼓膜がしびれて、泣いちゃいそう。
パラリラ、パラリラと遠くで吹き鳴らす、バイクの古臭い音色も、今だけはとびきりの祝福に聞こえる。
「ひとみ……ごめん、……っ、ごめんな」
「魁運……っ」
うなじのあたりを、魁運にきつくわしづかみにされた。
うしろ髪を絡め取り、耳の輪郭に太い親指をこすりつける。
らしくない乱暴な触れ方。
汗と涙の変なにおい。
視界いっぱいに映したかった。
渇いて、くらんだ、余裕のないあなたの顔。
「死ぬほど愛してる」
わかる。わかってる。
言いたいこと、何もかも伝わってるよ。
「魁運、これ」
「え……?」
小瓶に入ったドライフラワーを渡した。
あたしの言いたかったことも、やっと贈れる。
「これは……?」
「スイレンの花だよ」
「! スイレン……」
「ん。あたしの気持ち」
抱きしめる大きな背中の上に、ひと際、色濃く浮かぶ黒い影。
肩口にポタリ、たれた彼の涙に、その影は儚くほほえむ。
左胸が軋んだ。
「あのね、あたしね、」
愛したい。
この想いがあたしだけのものじゃないなら。
その分、深く、重く、愛されていたい。
一生じゃ満たせない。
あたし。
……あたしね。
「死んでもあなたに、あなただけに、愛されたい」
「ひとみ、」
「そばにいさせて」
あたしのこと、もらってよ。
いっそ助からなくてもいいから。