黒くぼやけた世界の中。
逆光を受けてもなお、あの真白は、どこまでもまぶしい。
「っ、ひとみ!」
「かい、うん……?」
塀をよじ登る、あの黒い人影は。
あのきれいなまでの白い髪は。
あたしの目がおかしいんじゃなくて。
足のないおばけでもなくて。
本当に、魁運……?
無意識に腕を伸ばしていた。
触れたら消えてしまわないだろうか。
これが夢なら、ぜんぶ、わるくしてしまう。
でも。
それでも。
「魁運……!!」
触れたいの。
「ひとみ!」
「っ、」
「ひとみ……っ」
ギュゥ、と。
先に捕まえられた。
触れられた。
触れてくれた。
「ひとみ! ひとみ……!」
「かいう……っ、……かい、う、」
「……、ひとみ」
痛いくらい握られた手を引っ張られた。
縁側のほうに乗り出した体を、魁運が強く受け止める。
首筋にかかる吐息が、荒く、熱い。
少し痩せた、筋肉質な体。
でもちょっと力みすぎてて。
平熱より低い温もりに、ようやっと脈が動く。
……魁運だ。
本当の、本物の、魁運だ。
「……ひとみ。会いたかった」
小さな、小さな、低い声。
くぐもって、涙ぐんで、かすれて。
だけどちゃんと聞こえた。
あたしも、ずっと、会いたくて苦しかった。