暗くなってきたけれど、奥の一角だけは夕焼けの残像をじかに浴びている。
カラスの鳴き声がこだました。
「ああなんて無残な……」
ふすまの亡き骸を拝みに来てみれば、遠目で見るよりもひどい有様だ。
近くに落ちてる、古い錠。
無理やりふすまに付けてあったんだろうな。見事なまでに破壊されてる。
もちろん、ふすま自体も。紙も骨も粉々だ。
「……ん?」
トン、と、足で何か蹴っちゃったような……。
何だろう。
小さなボール?
足元に転がるゴム製のボールには、亀のイラストがかわいらしく描かれていた。
コレでふすまをやったの?
外壁を越えて、この威力?
おそるべし。
「おい! さっきの音は何だ!?」
「ガキどもだ!」
「ウチの周りで暴走してやがる!」
「バイクの音がうるせぇの何のって」
組員の騒ぎようがこちらまで聞こえてきた。
塀の向こう側から、ドタバタと足音が響く。
このゴムボールも、そのガキどもの物?
怖いもの知らずなお遊びだこと。
大ごとにならないといいけど。
……ここであたしが逃げるのは、アリ?
好都合な静寂。
月明かりを帯びた夕闇の気配。
高い高い壁を越えて、壊された入口から流れる冷風が、ふわっ、と皮膚を叩くと軽やかに包んでいく。
やさしい風だった。
「――……ひとみ?」