微塵も表情を変えないあたしに、彼の目つきが細められていく。
「もしかして……これ以上何もされないと高をくくってます?」
「……ハッ、冗談」
髪に絡みついた指に、あたしはそっと手を重ねた。
そこからずるずると下へ、下へ。
手のひらをとおって、意外と太い手首をなぞった。
くすぐったそうにする彼を、くすり、嘲笑う。
「おまえに何ができるの?」
爪先で、彼の手首の動脈を軽く刺す。
喉仏がひくりと引きつった。
あは。やっと気づいた?
そうだよ、あたしはね。
逃げ出すことはできなくとも、形勢はいつでも逆転できちゃうの。
無知で無垢なおまえには早すぎたね。
「わかったらさっさとどい」
――ガッシャンッッ!!!
「……て……?」
衝撃が走った。
地面が一瞬浮いたような感覚に陥る。
「な、なに……?」
部屋の一番奥のふすまが倒れていた。
破裂したようなボロボロな状態で。
なんで!? 台風が来たわけじゃないよね!?
あそこだけピンポイントで壊れるなんてありえない。
ポルターガイストでもない。
何なの? 敵襲? いたずら?
「ひとみ様、少々様子をうかがってまいります。すぐに戻りますので、けしてこの部屋からお出にならないように」
「どうぞいってらっしゃい」
おかゆの食器ごと赤羽くんがこの場を離れ、ひさしぶりに一人になった。