魁運にどう思われていようと、届けに行くよ。
会いたいよ。
また苦しがって、拒むつもりでも、今度は『ごめんね』って言ってあげない。
この愛が墓場に埋まるとき、どうか最期のやさしさで、枯れ果てたスイレンを供えてね。
「……無防備だな」
「赤羽く、」
カランッ、コロンッ。
空になった食器が、畳の上を転がった。
唐突だった。
後頭部に枕が当たった。
天井の木目が視界に広がる。
あたしを押し倒した犯人は、不敵に見下ろし、一笑して。
「ちょうどいいし、ぼくにしません?」
頭沸いてんのか、こいつ。
「知ってます? ひとみ様の婚約の話がいっとき出ていたんですよ」
「…………」
「その相手が、ぼく。いわば白雪組公認です」
「…………」
あたしの知らないところで、あたしの話を進めるなよ。
ちょっと前まで存在すら知らなかったヤツと、よくもまあ公認カップルに仕立て上げようとしたな。
家出で話がくつがえったんだったら万々歳だ。
「迷惑がかかることも、家出をしてリスクを負う必要もありません。もちろんひとみ様のこと大切にしますし、環境も少しは譲歩しましょう」
「…………」
「恐怖も不審も悪意も、じゃまなものが何ひとつない、いたっておだやかで完璧な関係ではありませんか」
彼はグレーの髪をひとふさ拾い上げる。
くるくるもてあそび、唇の表面に毛先をすべらせた。