父さんより親らしいことしてる気がする。
教育係が身についてる。たまに情けないけど。
「純也、お嬢のこと頼んだぞ」
「しっかり見張っておくよ、アニキ」
部屋を出ていく兵吾郎に、赤羽くんがにこにこ敬礼する。
閉め切った扉のすきまから入りこむ、オレンジの日差し。
あ、鍵のかかる音がした。わざと音立てたな。
「アニキって? 兄弟なの?」
「ちがいますよ~。敬意をこめてそう呼んでいるんです」
「あの兵吾郎に? 敬意??」
「ひとみ様はアニキにどんなイメージを持ってるんですか……」
どんなって、あんな。
さっきまでの一部始終で伝わると思う。
彼はあたしの執事で、犬で、先生で。
味方に見せかけた、格下の敵。
「最近幹部入りしたぼくを、アニキがいろいろとサポートしてくれているんです。これまでアニキが最年少だったから気持ちはわかる、大丈夫だ、って。かっこいいと思いませんか?」
「いただきます」
「このタイミングで食事始めます!?」
そのアニキに食べるよう言われたので。
真ん中に梅干しを添えたおかゆを、少しすくって食べた。
始めに、熱。次に、無味。
おいしいような、おいしくないような。
塩気が濃いような。
「実はそれ、ぼくが作ったんですよ」
「そうなの? 塩の加減、まちがってない?」
「アニキに教わったとおりに作ったので問題ないかと」
なるほど。
ヤツのレシピが原因か。
これまで風邪という風邪を引いてこなかったし、こうしておかゆを食べることもなかったから気づかなかった。
兵吾郎の塩加減を、信用してはならないということに。