言うこと聞かないよ。わるい子だもん。
病み上がりだろうと逃げちゃうもんね。
そっちだってあたしの気持ち、なんにも聞いてくれないんだから、おあいこでしょ?
「お嬢、暴れないでください!」
「やなこった!」
「ひとみ様、どうどう」
「あたしゃ馬か」
「こ、これ……お嬢、これを!」
なんとか抵抗するあたしに、兵吾郎が最後の切り札みたく何かを渡してきた。
二つ折りにされた、白いメモ用紙だ。
「なに」
「組長からです」
「父さんから?」
渋々受け取ったメモ用紙を開くと、万年筆のインクがにじんでいた。
――ひとみ。
一番上の端っこ。
大した特別感も感じられない、きったない字。
軽々しい。
うらめしい。
あたしの名前は、文字どおり、この瞳から名付けられた。
目の色と引き換えに手放してしまったものが、何なのか。
あたしは悟っている。
少なくとも、父さんの走り書きでは、とうてい不釣り合いすぎて笑える。
――また抜け出そうとしても無駄だ。家の外周には組員を常時配置し、塀を高く造り直し、扉には鍵をつけた。部屋でおとなしく寝ていろ。
……だってさ。
あんの厨二病オヤジが。