僕からの溺愛特等席





 ────彼女の心がほかの誰かへ向いてしまうならば、僕は繋ぎ止めるまでだ。


僕の世界に色を注いでくれた野間 三春に捧ぐ。





「……私に捧ぐ?」


 また次のページへ進もうとした時、


「三春さん?」糸くんが顔を出した。


そして私の見ている本に気づくと



「ああ!!」

ものすごい形相で糸くんは書斎に入ってきた。

「……それ、みた?」

「う、うん」

「は、恥ずかしいから返してもらっていいですか」


糸くんは顔を手で覆い隠しながら言う。


「それは、その……僕の手記というか、僕達の馴れ初めというか……ああ、もうダメだ失態もいいところだ……」



 1ページ目には確かに私に捧ぐと書いてあった。

とても内容が気になる。糸くん私のことをどんな風に書いたのだろう。



「見ちゃダメ?」

私は糸くんの顔を覗き込んで、声をかけたが、ぶんぶんと首を振って


「絶対だめです!」と言われた。



 何度も頼んでみたけれどやっぱり恥ずかしいらしく、読ませてはくれなかった。





「こんなのは忘れて、さあ、さあお花見行きましょう」


「ええっー!」


 ぐいぐいと背中を押されて書斎から出され糸くんはよっぽど恥ずかしかったのか、もう顔を真っ赤にして、


「お花見に行こう」の一点張りだった。




 外は草や花の香りに満ちていて、ポカポカと暖かかった。

糸くんに手を引かれ、近くの桜並木へ向かって歩き出した。



「来年はお弁当持ってお花見しましょう三春さん」


「気が早いね」


私はくすりと笑う。今年のお花見も今からだと言うのに、もう来年の話をすることは、とても素敵なことに思えた。



「そうだね、来年はお弁当持っていこう」



 いつも彼は私の居場所を用意してくれる。



これから先、永遠とおなじ温度、おなじ場所があるわけが無い。

日常は実際に気づかれないくらいのゆっくりとしたスピードで変化していくだろう。



良いようにも悪いようにも変わっていく、それは自分たち次第だ。



今はそのとっておきの幸せがあることを噛めしめ、

めくるめく変わっていくもののなかで、ただ「暖かい場所だなあ」と言いきれる未来にする努力をしよう。




見上げると、私たちが歩く満開の桜並木はザワザワと話しかけてくるみたいに揺れ、花びらが頬を撫でた。











───どうやら、目次に隠された愛情に君は気づかなかったみたいだね。





”あいしてる三春”






────end.




「僕からの溺愛特等席」を読んでいただきありがとうございます。



今回の目的はただ一つ。



この小説が糸くんの手記として登場する。そして、目次を縦読みにする仕掛けがしたい!!



それだけです!そのためだけに何ページもの文章をこしらえました。


私の欲望のための長〜い長〜い振りが三春と糸くんの物語でした。完結できて良かったです。





いつもお寄せ頂いたひとこと感想にとても励まされています。本当にありがとうございます。



それではまた、どこかの物語で。

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